審査員の講評

審査員の講評

阿部 喜英/女川みらい創造株式会社
今は女川町海岸広場となっているこの計画対象地は、12年前までは「マリンパル女川」という観光施設があり、女川で最も賑わいがある場所でした。
今は、海辺のオープンスペースとなっていますが、白紙のキャンバスとなっています。
ここに、プライベートキャビンを整備するねらいは、人々が居場所となり得るフックとなる施設を創ることでした。民間投資でこのような施設を創って運営することにチャレンジするため、人々が過ごしたくなるプライベートキャビンのデザインを広く募集することにしました。
このキャビンのデザインで重視したのは、オープンとクローズの両立、プライバシーの確保とにぎわいの両立でした。

相澤 久美/NPO法人みちのくトレイルクラブ
キャビン、という小さな箱に多様な利用形態が想定され、女川の新しい風景を想像しながら審査に参加しました。それは無理だろ、という案も含め、元気いっぱいの作品、女川を想う心が表れる作品、一人佇んでみたくなる空間、家族と過ごしたくなる空間、みちのく潮風トレイルを歩くハイカーが喜びそうな空間、さまざまでした。
審査員賞には、地域の人や訪れた人たちの手で、ひとつのキャビンから多様なアクティビティー生み出され、公の場としてどんどん育っていく様が提案された作品を選びました。みちのく潮風トレイルは「みんなで育てる道」、という理念を持ちますが、地域計画としてあるトレイルはまちづくりでもあり、通じるものがあると感じました。
2つのキャビンが、たくさんの方々に愛され、さらに増殖していくことを期待しています。

東利恵/東 環境・建築研究所
女川には人が集まる魅力がある。その魅力のもとは女川の人々だと思う。その人たちから久しぶりにお声がかかった。女川シーパルピアから始まった縁だが、海側にできた公園にキャビンを2棟建てるのにコンペをするという。女川ファンとして、審査員を嬉しく引き受けた。
民間の事業なのでかなり厳しい予算、実施設計は地元の設計者にバトンタッチということで少し応募数が不安だったが、たくさんの応募があり、内容も応募者が真剣に取り組んでくれたことがわかる内容でとても嬉しかった。
まずは各自の個別審査を行い、その後審査員全員と主催する女川みらい創造株式会社の人たちで集まり5時間近く議論した。一次審査で選ばれた30数点の応募作を一つ一つ吟味して、絞り込んでいく。デザイン、公園でのあり方、予算感、事業性、などなど、それぞれの審査員がそれぞれの見方で意見を闊達に述べていく。この小さな2つのキャビンのためにこれだけ紛糾して長時間皆んなで議論したのも、女川ファンならでは?楽しい審査だった。
入賞(東賞)の縁側ベンチ案は海を眺める居場所としての優れた提案であると評価したが、一方では、有料の利用という点では難しさがあった。
今後、実現していくためにはハードルはまだまだあると思うが、女川なら大丈夫!竣工を楽しみにしたい。きっとイベント好きの女川っこは何か考えてくれるだろうと期待しつつ。

宇野 健一/アトリエU都市・地域空間計画室
まず、今回ご応募してくださった139人(チーム)のみなさまに御礼申し上げます。予想をはるかに上回る応募数でしかも密度の濃い提案が多く、正直なところ、優秀賞2案を選ぶのは大変でした。
さて、今回のプロジェクトの対象敷地である海岸広場ですが、海とともに生きる女川のシンボルとなる公有財産であり、ここに建ち現れることになるキャビンは、町民のみならず女川を訪れる観光客が女川を楽しむ際の居心地の良いBaseとなることが期待されています。優秀賞2案はこうした期待に十二分に応えられると確信できるものでした。
残念ながら選に漏れた方々にあっては、今回の出会いをきっかけに、女川サポーターとして継続的に見守っていただけますようお願いして講評としたいと思います。

小野寺康/小野寺康都市設計事務所
139点もの応募をいただいたことを、まずは感謝したい。どの案も熱意高く、アイディアが豊富に詰め込まれており、一次審査の段階でかなりの時間を要したのは嬉しい悲鳴でした。そして、二次審査に進んだ作品は審査員ごとに見事にバラバラで、互いにどのような価値観でなぜそれを選んだのかを聴き合うところから始まり、議論の中で応募案を何度も見返し、到達したのが優秀賞2案です。これらは、限られた予算の中で「キャビン」という空間概念を再構築し、デザインセンスとプロポーションの良さが共通していました。小さいかもしれないが珠玉のデザインが女川の水辺に生まれることを確信しています。期待を持って見守っていきます。